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大阪高等裁判所 昭和26年(ネ)27号 判決

原判決中被告永井謙道敗訴の部分を次のとおり変更する。附帯被控訴人に対し、附帯控訴人永井みつは金一二〇〇円、その余の附帯控訴人五名は各自金四八〇円を支払わなければならない。

附帯被控訴人その余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、第二審を通じてこれを三分しその一を附帯控訴人六名の負担とし、その二を附帯被控訴人の負担とする。

この判決は附帯被控訴人勝訴の部分に限り附帯被控訴人において附帯控訴人永井みつに対し金四〇〇円、その余の附帯控訴人五名に対し各自金一六〇円の担保を供するときは仮りに執行することができる。

二、事  実

控訴人は原判決を取り消す。控訴人に対し被控訴人永井みつは金一一、九五〇円、その余の被控訴人五名は各自金四七八〇円を支払わなければならない。訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人等の負担とする旨の判決ならびに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、附帯控訴に対し附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴人永井みつは控訴棄却の判決を求め、附帯控訴人六名は原判決中被告永井謙道敗訴の部分を取り消す。附帯被控訴人の請求を棄却する旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述および証拠の提出、認否、援用は控訴人において、被告永井謙道は昭和二五年一二月一一日死亡し、被控訴人永井みつはその妻として、その余の被控訴人五名はその直系卑属として遺産相続によりその権利義務を承継したものであるから、被控訴人永井みつに対し本訴請求額三五八五〇円(控訴状に三五八〇〇円とあるは三五八五〇円の誤記と認める)の三分の一にあたる金一一、九五〇円、その余の被控訴人五名に対しその一五分の二にあたる各自金四七八〇円の支払を求める。なお控訴人主張の上告棄却の判決の言い渡されたのは昭和二四年五月二五日であると述べ、被控訴人六名において永井謙道は控訴人およびその母西山セイが人並以上にむづかしい人であることを知つていたので、本件仮執行をなすについては、特に執行吏に依頼し、最も入念懇切な取扱によつて、諸物品を屋外に搬出したもので、その間物品を喪失し或は破損せしめたことはない。右西山セイは執行吏が仮執行のため現場に臨んだ際、同所に居合せながら、殊更執行に立会うことを避け、搬出物件の保管をしなかつたものである。仮りに物品の一部が喪失し或は破損したとしても、それは右仮執行の以前又はそれ以後に生じたことで、永井謙道に責任がない。而も永井謙道はその後控訴人に対し本権(永井謙道と控訴人との間の本件家屋の二階に対する使用貸借にもとずく返還請求権)にもとずいて、右二階の明渡請求の訴を提起し、第一審で勝訴の判決を受けたので、控訴人は本来右二階を明け渡すべき義務があつたのに、その義務を履行しなかつたので、永井謙道はやむなく本件仮執行をなすに至つたものであるから、仮りに右仮執行をなしたことが永井謙道の過失にもとずくものであつたとしても、控訴人にも右明渡義務不履行の過失があるので、その損害額の算定につき過失相殺を主張すると述べ<立証省略>た外、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

三、理  由

被控訴人等先代永井謙道が原告となり、控訴人を被告として福知山簡易裁判所に、控訴人が京都府天田郡上川口村字立原六五番地上木造瓦葺二階建住家一棟建坪一五坪七合五勺二階坪一〇坪のうち二階の部分に対する永井謙造の占有を侵奪したものとして、その部分の占有回収の訴を提起し、同庁昭和二二年(ハ)第六号事件として係属し、昭和二三年二月一三日同裁判所において仮執行宣言附原告勝訴の判決の言渡があつたので、永井謙道は右判決の執行力ある正本にもとずいて、同年四月九日右二階の明渡の執行をなし、控訴人は右判決に対し京都地方裁判所に控訴し、昭和二四年三月二二日同裁判所において原判決を取り消し、被控訴人永井謙道の請求を棄却する旨控訴人勝訴の判決があり、これに対する上告についても、上告棄却の判決があつて確定したことは当事者間に争がない。右上告棄却の判決が昭和二四年五月二五日言い渡されたことは、被控訴人等の明かに争わないところであるから、これを自白したものとみなす。

控訴人は右占有回収の訴は上級審においてその請求が棄却せられた不当な訴訟であつて、原告たる永井謙道の被告たる控訴人に対する不法行為であるから、これによつて生じた損害の賠償を求めると主張するので考えるに、訴が控訴人主張のような理由によつて不当な訴訟となり、ひいてその相手方に対する不法行為となるには、訴の提起その訴訟の追行に際し、原告がその請求の理由のないことを知るか、又はこれを知らないことに過失があり、而もこれがため被告に損害を生ぜしめた場合であることを必要とするものと解すべきところ、右占有回収の訴の提起、その追行について、原告たる永井謙道に右の如き故意又は過失のあつたことについては、これを認むべき証拠は何もなく、右訴訟の第一審において勝訴した永井謙道が、上級審においてその請求を棄却せられたというだけでは、未だ永井謙道に前記の如き故意又は過失があつたものとは考えられないので、右占有回収の訴の提起その追行を以て不法行為となすことはできない。従つて控訴人主張の損害中右訴訟によつて控訴人が被つたと主張するものと考えられる損害、すなわち控訴人が右訴訟の控訴審において依頼した弁護士吉田準三に支払つた金三、〇〇〇円の支払を求める控訴人の請求は、その理由がない。

次に控訴人は右占有回収の訴は上級審においてその請求が棄却せられ、第一審の仮執行宣言附判決が取り消されたので、右判決にもとずいてなされた仮執行は不当となり、これによつて生じた損害、すなわち(一)、控訴人の被つた損害として(1) 右仮執行により控訴人所有のズツク靴片足を喪失し、結局全部使用不能となつたことによつて被つた右ズツク靴一足の時価に相当する金五〇〇円、(2) 控訴人等が居住していた二階の明渡の執行をうけて、宿泊する場所がなくなつたため、大阪に赴いて宿泊した旅費宿泊費に相当する金二、一〇〇円、(3) 右明渡の執行をうけたため控訴人が昭和二三年五月一日から昭和二四年八月三一日まで林豊治方の居宅の一部を借り受けその賃料として支払つた一ケ月金一〇〇円の割合による賃料に相当する金一、六〇〇円、(4) 右明渡の執行によつて控訴人が被つた精神上の苦痛に対する慰藉料二〇、〇〇〇円、(二)控訴人と同居していた西山セイの被つた損害として、(1) 西山セイ所有の大鏡台一個(時価二、五〇〇円)、柳行李三個(時価三、〇〇〇円)、丼鉢三個(時価四〇〇円)、着物入箱一個(時価二〇〇円)、自転車空気入一個(時価五〇〇円)、一升壜一本(時価一〇〇円)の破損による時価相当の損害金合計六、七〇〇円、(2) 西山セイ所有の水油(時価三〇〇円)、枝木三〇束(時価七五〇円)、割木三〇束(時価九〇〇円)の喪失による時価の相当損害金合計一、九五〇円以上合計三二、八五〇円の賠償を求めると主張するので考えるに、右の如く仮執行宣言附判決が上級審において取り消され、その請求が棄却せられた場合、控訴人において該判決の仮執行によつて給付したものの返還を求めうるは勿論、これによりて被つた損害の賠償を請求しうることは民訴法第一九八条第二項の明定するところであつて、右損害賠償義務は執行債権者に過失あると否とを問わないものと解するを相当とするので、永井謙道は本件仮執行によつて控訴人の被つた損害を賠償すべき義務あるものといわなければならない。尤も、民訴法第一九八条第二項によつて執行債権者の過失の有無を問わず、仮執行によつて執行債務者に被らしめた損害を賠償せしめる所以のものは、判決の未確定中に執行をした債権者をしてその危険を負担せしめる主旨に出でたもので、右損害は仮執行が適法に行われた場合においてなおかつ生ずべき損害に限られるものと解すべきところ、控訴人主張の損害中(一)の(1) 、(二)の(1) 、(2) は、本件家屋の二階の明渡の執行のため、強制執行の目的物でない控訴人および西山セイ所有の動産の搬出、保管中に、その動産の一部を喪失或は破損せしめたことによる損害であつて、右はその執行方法が不当に行われたことによる損害であるから、執行債権者たる永井謙道をしてこれを負担せしめるためには、右損害の発生について、永井謙道に故意又は過失のあつたことを必要とするものと解するを相当とする。然るに永井謙道に右の如き故意又は過失のあつたことについては、これを認むべき証拠が何もないばかりでなく、本件仮執行中に控訴人がその所有のズツク靴片足を喪失せしめられ、西山セイがその主張の如き物品を喪失し或は破損せしめられたことについては、当裁判所においてたやすく信用することのできない原審証人西山セイの証言の外、これを認むべき証拠がなく、却つて原審における証人小田槌松、浪江盛平、堀信市、小西美恵子、大槻さく江、永井みつの各証言、検証の結果によると、永井謙道から右二階の明渡の執行を委任せられた執行吏浪江盛平は、昭和二三年四月九日執行のため控訴人方に赴いたところ、同人は不在で、同居者である西山セイがいたので、同人に前記仮執行の宣言附判決の執行力ある正本を交付し、執行に着手しようとしたところ、西山セイが外出して了つたので、村長および駐在所の巡査の立会の下に、同日午前一〇時右執行に着手し、同執行吏は補助者二人を使用して、強制執行の目的物でない控訴人および西山セイ所有の動産全部を戸外に搬出し、永井謙道をして右二階の占有を得せしめ、同日午後二時右明渡の執行を終了したこと、右戸外に搬出された動産類については、同日雨が降りそうになつたのと、盗難にかかる虞があつたので、近所の人々がそのうち枝木および割木を除くすべてのものを、藤田兼次郎と大槻さく江方の表玄関に運び入れて保管し、後日控訴人等に引き渡し、枝木と割木は暫く永井謙道方の表軒下に置かれてあつたが、その後控訴人および西山セイが持ち帰つたこと、右動産類の搬出運搬等は入念に行われ、その間喪失、破損する等の事故のなかつたことが認められるので、右損害の賠償を求める控訴人の請求は爾余の争点に対する判断をなすまでもなく、失当として排斥を免れない。

そこで、控訴人が右仮執行によつてその主張の(一)の(2) 、(3) 、(4) の損害を被つたか否かについて逐次検討するに、原審証人塩見ヌイ、西山セイの証言によると、本件仮執行の際、大阪に赴いたものは控訴人でなくて西山セイであり、而も大阪に赴いたのは右明渡の執行をうけて宿泊する場所がなくなつたためではなく、執行吏から明渡の執行をする旨告げられ、大阪に居住する姉の塩見ヌイに相談するためであつたことが認められるので、控訴人主張の如き右(2) の損害は認められない。次の原審証人西山セイの証言(第一、第二回)、同永井みつの証言、原審ならびに当審証人塩見ヌイの証言に弁論の全趣旨を綜合すると、控訴人等は本件家屋は西山セイの所有であつて、その二階は永井謙道に賃貸したものでないとして、昭和二二年三月頃から右二階に転居したもので、永井謙道において不服ではあつたが、控訴人等の二階に居住することを黙認してきたところ、その後両者の間が円満にゆかず、遂に本件占有回収の訴にまで発展したものであるが、とにかく控訴人は本件家屋の二階を無償で占有居住していたのに、本件仮執行によつてその居住すべき場所を失い、暫時附近の大畑佐吉方に止宿していたが、昭和二三年五月一日から京都府天田郡上川口村字野花林豊治方居宅の一部を一ケ月賃料一〇〇円の約定にて借り受け、昭和二七年三月頃までここに居住していたことが認められる。そして冒頭認定の如く本件占有回収の訴について上告審において控訴人勝訴の判決が言い渡されたのは昭和二四年五月二五日であり、当審証人塩見ヌイの証言に弁論の全趣旨を綜合すると、当時永井謙道は控訴人に対し使用貸借の解約による返還請求権にもとずいて、本件家屋の二階の明渡請求の訴を提起し、係争中であつたことが認められるので、控訴人が右判決にもとずいて永井謙道に対し原状回復を求めたとしても同人がこれに応じて本件家屋の二階を返還したとは考えられないので、控訴人において原状回復の訴を起すより外なく、その場合控訴人がその目的を達して右二階に復帰するには優に同年八月三一日以後になることが考えられるので、少くとも控訴人主張の昭和二三年五月一日から昭和二四年八月三一日まで一ケ月金一〇〇円の割合による賃料合計一、六〇〇円は控訴人が右仮執行によつて支出を余儀なくせられるもので、控訴人は同額の損害を被つたものといわなければならない。尤も第三者の作成に係り真正に成立したものと認める乙第三号証の一、二によると、林豊治は控訴人から未だ右賃料の支払をうけていないことが認められるが、そうだとしても控訴人は同額の賃料債務を負担していることになるので、控訴人が右仮執行によつて同額の損害を被つたことになることには消長がない。更に控訴人が本件仮執行によつて、その家財道具を戸外に搬出せられ居住すべき場所を喪うに至つたことにより、当時精神的に相当の苦痛を受けたであろうことは推認するに難くないので、執行債権者たる永井謙道はこれがため控訴人のうけた精神上の苦痛に対し、慰藉の方法をつくすべきは当然の事理であつて、その慰藉料の額について考えるに、原審証人塩見ヌイ、西山セイの各証言によつて認めうべき控訴人の社会上の地位その他諸般の事情を斟酌してこれが慰藉料として金二、〇〇〇円を相当と認める。

被控訴人等は本件損害の発生については、その主張の如く控訴人にも過失があるので、損害額の算定について斟酌せらるべきものであると主張するので考えるに、被控訴人等主張の如き本権にもとずき、控訴人に本件家屋の二階の明渡請求に応ずべき義務ありとするも、右二階に対する本件占有回収の請求に応ずべきいわれがないので、それに応じなかつたからといつて、本件仮執行による損害の発生につき、控訴人に過失あるものとはなし難く、その他叙上認定の損害の発生について、控訴人に過失のあつたことを認むべき資料がないので、被控訴人等の右主張は採用しない。

そうだとすれば、永井謙道は控訴人に対し前記賃料相当の損害金一、六〇〇円と慰藉料二、〇〇〇円合計三、六〇〇円を支払うべき義務あるもので、同人が昭和二五年一二月一一日死亡し、被控訴人永井みつはその妻として、その余の被控訴人五名はその直系卑属として遺産相続によりその権利義務を承継したことは被控訴人等の明かに争わないところであるからこれを自白したものとみなす。従つて被控訴人等は永井謙道の控訴人に対する右損害賠償債務を承継したものであつて、被控訴人永井みつはその三分の一にあたる金一、二〇〇円、その余の被控訴人五名はその一五分の二にあたる各自金四八〇円を控訴人に対し支払うべき義務あるものといわなければならないので、控訴人の本訴請求は右認定の範囲において正当として認容すべきも、その余は失当として棄却するの外なく、従つて控訴人の本件控訴はその理由がないのでこれを棄却し、右認定の範囲を超えて控訴人の請求を認容した原判決はその部分に限り失当であつて、本件附帯控訴はその限度において理由があるので、原判決中被告永井謙道敗訴の部分を右の如く変更し、訴訟費用の負担につき民訴法第九六条、第八九条、第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉村正道 大田外一 金田宇佐夫)

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